電子帳簿保存法における「スキャナ保存」
スキャナ保存とは、取引の相手方から受領もしくは自分で作成したした紙面の証憑を、スキャナ機器を使用して電子データに変換し、それを保存することをいいます(紙面のほうは破棄します)。ここで証憑とは、領収書、請求書、契約書といった書類を指します。スキャナ機器には、スキャン専用機や複合機のスキャナ機能を利用します。デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能も利用可能です。
スキャナ保存は、紙面のものを電子データに変換して保存する点に大きな特徴があります。変換点において不正や誤謬が発生する可能性が高いと考えられていることから、それを防止するための規制が多く設けられています。
スキャナ保存の対象
スキャナ保存の対象は、領収書、請求書、契約書といった証憑書類です。貸借対照表、損益計算書、仕訳帳、総勘定元帳といった決算書類や帳簿書類はスキャナ保存の対象になりません。これらの書類は電子帳簿保存法の別カテゴリで電子保存の対象になっています。詳細は別稿で記載します。
スキャナ保存の対象書類は、「重要度」によって以下の3つに分けられ、運用上、「重要書類」と「一般書類」の2つに分類されています。
例 | 重要度 | 重要度の説明 | 書類の性格 | 書類の分類 | |
① | 契約書、領収書 | 高 | 資金や物の流れに直結・連動する書類のうち特に重要な書類 | 一連の取引の開始時点と終了時点で作成される。②の書類の真実性を補完する。 | 重要書類 |
② | 請求書、納品書、預り証 | 中 | 資金や物の流れに直結・連動する書類 | 一連の取引の中間過程で作成される。 | 重要書類 |
③ | 見積書、注文書、検収書 | 低 | 資金や物の流れに直結・連動しない書類 | 同左 | 一般書類 |
スキャナ保存の要件
主な要件として、以下の6つがあります。
(1)入力期間の要件
請求書などの書類を取引先から受領したあと、それをスキャンして会計システムに登録(電子帳簿保存法ではこれを「入力」と表現しています)するまでの期間のことを、入力期間と呼んでいます。つまり、取引先から受け取ってからいつまでに登録を完了させなければいけない、という要件です。
重要書類と一般書類に分けて規定されています。
①重要書類
重要書類については、2つの方式が認められています。
イ 早期入力方式
受領後、速やかに(おおむね7営業日以内に)行う方式です。
ロ 業務処理サイクル方式
受領後、業務の処理に係る通常の期間(最長で2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内に)行う方式です(合わせて、最長で2か月+7営業日)。ただし、業務の処理(受領から入力までのそれぞれの事務処理)に関する規程を会社として定めておくことが必要です。
通常は、②の方式が採用されます。
②一般書類
重要度が低い一般書類については、「適時に入力」、すなわち、入力期間の制限なく入力することができます。
(2)スキャナの機能
解像度が200dpi以上、カラーでスキャンできること、という要件です。現在市販されているスキャナ機器やスマートフォンであれば問題なく要件を満たすと考えられます。
(3)タイムスタンプの付与
タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術。タイムスタンプに記載されている情報とオリジナルの電子データから得られる情報を比較することで、タイムスタンプの付された時刻から改ざんされていないことを確実かつ簡単に確認することができます。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/basic/structure/05.html
スキャンした電子データにタイムスタンプを付与することによって、それ以降そのデータに改ざんがないことを確かめることができます。
タイムスタンプを付与する方法は、(1)との関連で、以下の2つの方式が認められています。
①早期タイムスタンプ付与方式
受領後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です。
②業務サイクルタイムスタンプ付与方式
受領後、業務の処理に係る通常の期間(最長で2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です(合わせて、最長で2か月+7営業日)。ただし、業務の処理(受領から入力、タイムスタンプ付与までのそれぞれの事務処理)に関する規程を会社として定めておくことが必要です。
なお、タイムスタンプは下記の要件を満たすものが必要となっています。
- 保存したデータが変更されていないことを確認できること
- 任意の期間を指定して一括で検証することができること
タイムスタンプについては、その付与を不要とするケースがあります。会社が使用する会計システム上に同等の機能(保存日時、改ざん有無の確認)が備えられている場合には、タイムスタンプは不要となります。
(国税関係書類に係る記録事項の入力を速やかに行ったこと等を確認することができる場合(タイムスタンプを付す代わりに改ざん不可等のシステムを使用して保存する場合))
電子帳簿保存法取扱通達
4-28 規則第2条第6項第2号ロ((タイムスタンプの付与))に掲げる要件に代えることができる同号柱書に規定する「当該保存義務者が同号(規則第2条第6項第1号)イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合」については、例えば、他者が提供するクラウドサーバ(同項第2号ニに掲げる電子計算機処理システムの要件を満たすものに限る。)により保存を行い、当該クラウドサーバがNTP(Network Time Protocol)サーバと同期するなどにより、その国税関係書類に係る記録事項の入力がその作成又は受領後、速やかに行われたこと(その国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合にあってはその国税関係書類に係る記録事項の入力がその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行われたこと)の確認ができるようにその保存日時の証明が客観的に担保されている場合が該当する。
(4)解像度と書類の大きさの情報を保存できること
書類の大きさについては、A4サイズを超える場合のみ必要となります。
(5)訂正情報を保持できること
いったん保存した情報を訂正または削除できないこと、もしくは、訂正または削除した場合、その情報(Log)がシステム上残され、あとから確認できることが必要となります。
(6)関係者の情報を保持しておくこと
システムへの登録担当者とその方を直接監督する方の氏名や部署名を記録として残しておくことが必要です。外部に委託する場合も同様です。
(7)帳簿との関連性を保持しておくこと
スキャンした書類とそれに関連する帳簿との間で、相互にその関連性を確認できるようにしておく必要があります。通常、スキャンした書類は何らかの仕訳もしくは補助記録と結びつけて保存されますので、そのような仕組みが整っていれば問題ありません。
(8)閲覧環境の整備
パソコン、ディスプレイ、プリンタとそれらの操作説明書を備え付け、速やかに出力できる状態にしておく必要があります。
(9)検索機能の確保
下記の要件が必要となります。
- 取引等年月日、取引金額、取引先名称を検索条件として設定できること
- 日付または金額については、範囲指定ができること
- 2つ以上の項目の組み合わせて検索できること
なお、税務調査時にデータを提出できるようにしている場合には、上記1のみが必要な要件となります。
一般的な会計システムにこれらの検索機能が備わっていますので、それを利用することで問題ありません。ただし、取引先名称はスキャンした画像データ上で確認できるだけでは不十分ですので(現状では画像検索は想定されていません)、会計システム上にテキストデータで入力しておく必要があります。
(10)会計システムの関連書類の備付け
下記の書類の備付けが必要となります。
- システムの概要書
- システムの開発関係書類(仕様書、設計書など)
- システムの操作説明書
- スキャナ保存に関する事務手続を明らかにした書類
他社が開発した会計システムを使用している場合は上記の1および2は除かれます。会計システムの使用を他者に委託している場合は3が除かれます。
4に該当する書類は会社で作成しておく必要があります。
上記に列挙した要件(1)や(3)で必要とされる「業務の処理に関する規程」とこの4の「書類」の違いは、前者が「作業責任者、処理基準及び判断基準等を含めた業務サイクルにおけるワークフローなどの企業の方針を定めたもの」(全体概要)であるのに対して、後者は「責任者、作業の過程、順序及び入力方法などの手続を明確に表現したもの」(個別詳細)となります。